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東京地方裁判所 昭和56年(モ)6363号 判決 1981年9月30日

債権者 泉大輔

右訴訟代理人弁護士 高橋進

債務者 株式会社白磁社

右代表者代表取締役 松村清

右訴訟代理人弁護士 内田博

同 角田由紀子

主文

債権者と債務者との間の東京地方裁判所昭和五五年(ヨ)第九六二二号債権仮差押事件について当裁判所が同年一二月二七日になした決定は、これを認可する。

訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(申請の趣旨)

主文と同旨

(申請の趣旨に対する答弁)

一  主文第一項記載の決定を取り消す。

二  債権者の本件仮差押申請を却下する。

三  訴訟費用は債権者の負担とする。

第二当事者の主張

(申請の理由)

一  債権者は別紙手形目録記載の約束手形一通を所持している。

二  債務者は右手形を振り出した。

三  右手形の裏面には裏書人訴外上野良克、被裏書人白地なる記載がある。

四  債権者は右手形を支払期日の翌日に支払場所に呈示したが支払を拒絶された。

五  債務者の資産状況は不明であり、右手形金請求債権保全のため、昭和五五年一二月二二日、債務者が右約束手形の不渡処分を免れるために訴外株式会社太陽神戸銀行の加盟する銀行協会に提供させる目的で同訴外会社に預託した金員の返還請求権を仮に差押える申請を当裁判所になし、同年同月二七日、本件仮差押決定を得た。

よって申請の趣旨記載の判決を求める。

(申請の理由に対する答弁)

申請の理由第一ないし第五項の各事実は全て認める。

(抗弁)

本件手形は裏書禁止手形である。すなわち、受取人欄の「上野良克殿」の次に「限り」という文言が振出人たる債務者によって書き加えられており、このことは手形面上明らかである。したがって、債権者は単に受取人より裏書譲渡を受けたのみでは本件手形債権の取得を債務者に対して主張することはできない。

(抗弁に対する認否)

抗弁事実は否認する。本件手形は受取人白地のまま振り出されたものであり、その裏書禁止文言は不動文字の指図文句を抹消せずに極めて小さくかつ読みにくい字で「限り」と書いたものであり、裏書禁止手形と解釈することはできない。

第三疎明《省略》

理由

申請の理由記載の各事実については、当事者間に争いがない。

そこで、債務者主張の抗弁について検討する。《証拠省略》によれば、本件約束手形の受取人欄には「上野良克殿」との記載に続いて「限り」なる文字が記載されていること、しかしながらその記載された「限り」という文字は、不動文字たる「殿」という文字(たて、横ともに約三ミリメートルの大きさ)とほぼ同じ大きさの非常に小さなものであるうえ、極めて粗雑な字体で走り書きされたものであるため、一見して明瞭な記載であるとはいいがたく、通常の注意力をもってしては、その記載自体を見落とすか、仮にその記載に気付いたとしてもそれが「限り」と記載されたものであるとの他からの指摘があって初めて判読できる程度の極めて判読困難な記載であること、また、手形面上に存する不動文字の指図文句は抹消されないままであること、がそれぞれ認められる。ところで、一般に高度の流通性をその特色とする手形にあっても、振出人が手形面上に裏書禁止文句を記載することによって裏書譲渡性を奪うことができ(手形法第一一条、第七七条)、この場合、裏書禁止文句としては、「指図禁止」なる文字のほか、受取人の次に「限り」なる記載をしただけでも裏書禁止文句の記載とみなされ、また不動文字の指図文句を抹消せずに裏書禁止文句を記載した場合でも裏書禁止手形としての効力が認められると解するのが相当であるが、一方、これら裏書禁止文句の記載は、それが裏書による強力な権利移転的効力を排除するものであるところから、その後の手形取得者に不測の損害を与えることのないよう、その後の手形取得者が手形取引上一般に要求される程度の注意力をもってすれば容易に認識、判読できるような明瞭な記載であることを要するものであって、記載がその明瞭性を欠く場合には、その記載は無効であり、裏書禁止の効力も生じないものと解するのが相当であると思料する。してみると、本件手形の前記裏書禁止文句の記載は、明瞭性を欠く不充分な記載であるから無効であるというべく、したがって本件手形は裏書禁止手形と認めることはできない。なお、本件手形金請求事件の手形判決(東京地方裁判所昭和五五年(手ワ)第三七五二号)の判断は本件と結論を異にするものであるが、前記記載の理由に照らし、右手形判決の結論は採用できない。

よって、債権者の本件仮差押申請は理由があり、これを認容した本件仮差押決定は正当であるからこれを認可することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉本正樹)

<以下省略>

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